ザッピング

チャンネルはころころ変わる

読書録:2020年上半期

 

1. 斎藤真理子責任編集『完全版 韓国・フェミニズム・日本』河出書房新社、2019年

同特集が組まれた雑誌「文藝」の秋季号が手に入らなくてがっかりしていたから、この完全版が出て嬉しかった~~~!!チョ・ナムジュさん(キムジヨンの著者)の書いた「家出」がすごく好き。

 

2. 上野千鶴子、小倉千加子著『ザ・フェミニズム』筑摩書房、2002年

年末から年をまたいで一生懸命読んだ。上野さんと小倉さんの対談形式になっていて、ポンポンと言葉の応酬がなされる様子が想像できて読みやすい。フェミニズムを勉強するなら上野千鶴子だろ!という発想から手に取ったんだけど、お二人の議題に上がっている具体的な事柄(例を挙げると林真理子、結婚、夫婦別姓、ウーマンリブ、東電OLなどなど)についてうんぬんというよりは、「フェミニズムって一枚岩じゃなくていいんだ!」ということが初めて私の中でストンと落ちたという気がする。上野さんと小倉さんで対立している意見もたくさんあるし、これに関しては上野さんに納得するけど、こっちに関しては小倉さん寄りかなあ、はたまたどっちとも違う意見だなあなんて考えながら読んだ。

(あとがきより)

上野千鶴子「だが読者は『フェミニズムって言っても、いろいろあるのねえ』という感想を持たれることであろう。それこそがねらいである」

小倉千加子「さて、この本を読んで怒りのあまり憤死する人が十人はいるだろうと、私は思う。悪いなとは思うが、フェミニズムは一人一派だから、考え方が対立して当然なのだ」

 

3. 上野千鶴子、田房永子著『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』大和書房、2020年

母親との上手くいかなさ、いわゆる毒親について描いたコミックエッセイ『母がしんどい』で有名な田房さんが上野さんに「フェミニズム」について聞くという、これまた対談形式で読みやすい本。『ザ・フェミニズム』は同世代の専門家同士の対話だから、世代の違う私には分からない話もたくさんあったんだけど(東電OL事件なんかググらないと分からなかった)、この本は最初に書かれているように団塊世代の上野さんと団塊ジュニア世代の田房さんということもあって主に日本のフェミニズムの流れについて詳しく解説されていて勉強になる。田房さんと同じ目線で読める。そしてそれにつっこんでくる上野先生w

すごく印象的だったのは、フェミニズムの断絶についての話かな。2019年あたりからフェミニズムがすごく盛り上がってきたような雰囲気があるという話で、それは裏返すと上野千鶴子世代のやってきたフェミニズムが今の世代に繋がっていないということでもある。上野さんからしたらずっとやってきたことなのに、今の10代にとっては例えばエマ・ワトソンに代表されるように、フェミニズムは外国から入ってきたもの、「再発見」だと言われてしまう。自分たちのしてきたことはなんだったんだろうと思ってしまう…という話。私自身、例えば津田梅子とか平塚らいてう、与謝野晶子といった名前は知っていても、こうやって自ら勉強しようとするまでフェミニズムそのものについてちゃんと教わったことないもんな。教わるものなのかということはともかく。ハロプロや宝塚といった女性たちを推すようになって、なんとなく自分が女であることや、女である自分が女を推すということからうっすらジェンダーやその周辺に興味を持つようになったまま数年経ってキムジヨンでそれが爆発した感じ。そしたらなぜかたまたま世の中もフェミニズムが盛り上がってきたからこうやってたくさん本も出てるわけで、流れに乗れてありがたいとも思うし、またその「流れ」に沈めちゃだめだよなとも思うし…

 

4. 大沼保昭著、聞き手江川紹子『「歴史認識」とは何か 対立の構図を超えて』中公新書、2015年

戦後の東京裁判、サンフランシスコ条約まで遡りつついわゆる慰安婦問題などの「歴史認識」問題について検証している。一連の流れについて新書でササっとさらいたいって場合には読みやすくて最適かなと思った。著者の大沼さんは慰安婦問題について他にも本を書かれているようなのでそちらも読もうと思っている。

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5. 上野千鶴子著『女ぎらい ニッポンのミソジニー』朝日文庫、2018年

お正月くらいから読み始めて、一度休んでまた読み終わるまで数か月かかった記憶。ホモソーシャルとは何なのか?ホモソーシャルにおいてミソジニーとホモフォビアがどのように機能しているのか?といった、フェミニズムを追っているとよく出てくる基本的な問いのようなものを繰り返し繰り返し丁寧に説明してくれる。普段ツイッターなどで話題になるようなフェミニズム的問題は、だいたいこの理論を知っていれば自分の中に落とし込める。そう理解できるようになっただけでも読んでよかった一冊。

人は「女になる」ときに、「女」というカテゴリーが背負った歴史的なミソジニーのすべてをいったんは引き受ける。そのカテゴリーが与える指定席に安住すれば、「女」が誕生する。だが、フェミニストとはその「指定席」に違和感を感じる者、ミソジニーへの「適応」をしなかった者たちのことだ。…(略)…ミソジニーを持たない女(そんな女がいるとして)には、フェミニストになる必要も理由もない。ときたま「わたしは女だってことにこだわったことなんて一度もないわ」とうそぶく女がいるが、この言い方は、「わたしはミソジニーとの対決を避けてきた」と翻訳するのが適切だろう。(155~156ページ)

私が女性性を強く愛するのは、私が女であることにこだわっていることの裏返しなのかなと思った。

 

6. タバブックス『韓国フェミニズムと私たち』2019年

これすごくよかった!イ・ミンギョンさんやイ・ランさんなど、韓国フェミニズムを追っていたら必ず目にしたことのある方々の文章をはじめ、韓国フェミニズムを追う上で指針となるような一冊。ソウルにあるフェミニズム関連の施設や書店、カフェなどの特集ページがあって、それがとても良い。早くこの本を小脇に抱えてまたソウルを巡りたい。

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7. 現代思想11 2019 vol. 47-14 「特集 反出生主義を考える 「生まれてこないほうが良かった」という思想」

「たとえ人生にいくら快が多くあったとしても、人生のなかに痛みがほんの一滴でもあっただけで、生まれてこない良さのほうが、生まれてきた良さよりも勝ってしまう(12ページ)」というD. ベネターの主張について検証する。この一冊を読み終えてはじめて哲学というものがこんなにも論理的で、もっと簡単に言うとなんか数学的というか理系というか…そういうものなんだって実感した。ベネターの主張が正しいかどうかの論証が難しすぎてちんぷんかんぷんだった。最初の森岡正博さんと戸谷洋志さんの討議「生きることの意味を問う哲学」では、まさにそういう話がされている。「『生まれてこないほうが良かった』と論理的に言えるか言えないかということは、それだけ取り出してみればこれは非常に知的なパズル解き」だけど、それに熱中してそういう方向へ持っていってしまうと「本当にこの問題を実存的な自分の問題として抱え込んでいる人たちにとっては、強い言葉を言わせてもらえば、自分たちが侮辱されているような気になると思います(11ページ)」と述べられている。「自分の人生に苦悩してべネターの本に手を伸ばすという読者も多数いるでしょう(12ページ)」とも言われていて、私はまさに、何かヒントにならないかなと思ってこの現代思想を手に取ったから、哲学的な論証ばかりされていてちょっと拍子抜けたというか、そもそもがみんなベネターへの反論ありきで証明しようとしているものだからなんだかな…となってしまった。「生」=絶対的な「善」みたいな価値観が、私には苦しい。

 

8. ペク・セヒ著、山口ミル訳『死にたいけど、トッポッキは食べたい』光文社、2020年

自分の死を自分で選択することが、人生を放棄するのではなく、一つの選択肢になることもある。もちろん、残された者たちの悲しみは到底言葉にできるものではないが、生が死より苦痛であるなら、進んでその生を終える自由も尊重されるべきではないだろうか。

(146ページ)

私は、何も知らずに生だけが素晴らしいものだと信じて他人にもその眩しさごとぶつかってくる人より、闇の中からも他人に寄り添ってその選択肢を尊重しようと言える人の方がずっと信頼できると思う。

実は、駐日韓国文化院さん主催の「韓国エッセイ書評コンテスト」にて、この『死にたいけど、トッポッキは食べたい』について書いた私の作品が優秀賞をいただきました!これもう本当に嬉しくて…!!ツイッターでも言いたかったんだけどフルネームが出てしまっていたので迷った挙句さすがに自重したwでもまあブログならいいかな~ってことで、こちらのページから他の受賞作品と一緒に見ていただくことができるのでぜひ読んでみてください。

www.koreanculture.jp

 

9. 宮津大蔵著『ヅカメン!お父ちゃんたちの宝塚』祥伝社文庫、2020年

宝塚に関わる男性を主役にしたオムニバス形式の小説。通して出てくる「サンバさん」には人それぞれ思い描く生徒さんがいると思うんだけど、私はともみんを思い浮かべながら読んだ。明るくて太陽みたいで足が長くてお鬚の似合うともみん。

 

10. 伊東順子著『韓国 現地からの報告 - セウォル号事件から文在寅政権まで』ちくま新書、2020年

長く韓国にお住まいの伊東さん(キムジヨンに解説を書かれた方)が、セウォル号、ろうそくデモ、朴政権弾劾、文政権、徴用工、慰安婦、「パラサイト」、韓国の教育現場、日本への思いなど、実際の韓国の空気とはどういうものだったのかということを伝えてくれる。

(はじめにより)

一人ひとりが自分の頭で考えて、行動することが大切な時代。韓国の人たちも、今、そうしなければいけないと思っている。

世界中が混迷する時代、かつてのように米国や日本にお手本があるわけでもない。大統領も一般国民も悩みながら、手探りしながら、頑張って前進しようとしている。

韓国の、あの一体感とでもいおうか、自分たちこそが国を作っていく主人公なんだという気概、強さみたいなものを時々ひどく羨ましく思ったりする。あんなふうに生きてみたいと思う。

キムタクのファンのくだり、声出して笑っちゃう。

 

11. 石弘之著『感染症の世界史』角川ソフィア文庫、2019年

感染症と人類に関する様々な話がまとめられているけれど、14世紀のペスト流行では人口が急減したことで農村が無人になり、領主と農民の力関係が逆転、中世社会が崩壊する原動力となった…という話が印象的だった。永遠にここがゴールだと思っていた資本主義社会とかグローバル社会がもしかしたらコロナをきっかけに変わっていくのかもしれない、歴史の目撃者となるんだという興奮と不安のさなかの4月ごろに読んだから余計に。

 

12. マーガレット・アトウッド著、斎藤英治訳『侍女の物語』ハヤカワepi文庫、2001年

フェミニズム小説ということで読んだ。

ギレアデ共和国の侍女オブフレッド。彼女の役目はただひとつ、配属先の邸宅の主である司令官の子を産むことだ。しかし彼女は夫と幼い娘と暮らしていた時代、仕事や財産を持っていた昔を忘れることができない。監視と処刑の恐怖に怯えながら逃亡の道を探る彼女の生活に、ある日希望の光がさしこむが……。自由を奪われた近未来社会でもがく人々を描く、カナダ総督文学賞、アーサー・C・クラーク賞受賞作。解説/落合恵子

オチの設定がすごく好きなんだけど、それをここに書くわけにもいかないよね…?とにかくすごくのめりこんで読んだし、ディストピア小説というジャンルの扉を開いた気がした。

 

13. もちぎ著『ゲイ風俗のもちぎさん セクシュアリティは人生だ』KADOKAWA、2019年

ツイッターやっていてもちぎさんを見たことないって人はいないと思う。もちぎさんすごく好きなんだよな~~まずもちぎさんの謎のフォルムがかわいすぎてダメ。もちぎさんの恋した先生の話が好き。

 

14. ヤマザキマリ著『国境のない生き方 私をつくった本と旅』小学館新書、2015年

ヤマザキマリさんがいろいろな国で生きてきた方だということは知っていたから、そういう具体的な体験みたいなものが読みたくて手に取ったんだけど、中身はどちらかというとそういう体験に基づく個人的な思想が中心になっていてちょっとがっかりしちゃった。啓発書みたいな。しかもその根底にあるのがそれこそ「生きていればオッケー」的な絶対的に肯定される「生」なのでかなりつらい。ゆとりやさとりと言われる今の若者に向かって「楽しいんですか、それで?」と言い放ってしまえる感じとか…つらい……世代が違うから、ヤマザキさんにはヤマザキさんなりのつらさがあって、その上で生を信じることで乗り越えてきたことがたくさんあるんだろうというのは分かるけど、私には合わないなあと思った。

 

15. 加藤重広著『言語学講義 その起源と未来』ちくま新書、2019年

いま取りたくて勉強してる資格が言語系なので読んだ。資格を取ろうとして初めてソシュールとかチョムスキーといった言語学に足を踏み入れたけど、こんなに面白いってもっと早く知りたかったなあ。

 

16. ドナルド・キーン、河路由佳著『ドナルド・キーン わたしの日本語修行』白水社、2020年

太平洋戦争中、アメリカの海軍日本語学校で日本語を勉強して戦時通訳として働いた後にそのまま日本文学の研究者となったD. キーン氏の話。語られる海軍日本語学校での授業の様子や、他の生徒や先生たちとの話は終始なごやかで楽しそうだし、日本語が好きだから楽しくて、楽しかったから普段も自発的に生徒同士日本語を使うようになったという話で驚いた。海軍日本語学校の生徒で日本に親しみを覚えなかった人はいないと思う、と何度も述べているのが印象的だった。この本から知りえるこの情報に限って考えると、敵性言語などと言って英語の使用を禁じていた当時の日本とのこの精神性の違い…って思いを馳せてしまう。

海軍日本語学校で教科書として使用されていた長沼直兄の『標準日本語讀本』には軍隊式の命令口調や厳しい命令の仕方、乱暴な言葉遣いは出てこなかったから当然知るはずもなく、その後通訳として日本人捕虜と向かい合う中でもそういった言葉を使うことはなかったっていう話も、なんか言葉そのもののありかたを考えさせられるというか…知らない表現は当然話せるはずもないんだよな。

 

17. パオロ・ジョルダーノ著、飯田亮介訳『コロナの時代の僕ら』早川書房、2020年

いつかまた、全てが過去となった時(そんな時が来るかも分からないが)に読み返してどういう気持ちになるのか楽しみでもあるし怖くもある。

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18. 中村哲著『アフガニスタンの診療所から』ちくま文庫、2005年

今や全世界で、皆がおそれながらも口に出しにくい事実は、我われが何かの終局に向かって確実に驀進しているということである。我われの未来を考えるのは幾分恐ろしい。我われはいっぽうで地球環境や人口問題を問い、他方で経済の活性化を語る。だが明白なことは、自然破壊なしに経済成長なく、奴隷なしに貴族はなく、貧困なしに繁栄もないということである。(205ページ)

その昔栄光をほこったガンダーラ文明の廃墟に立って、このアフガニスタンでおきた悪夢のような血の狂宴を思うとき、ひとつの感慨に支配される。我われの文明もまた、自壊作用がはじまっていることを感ぜずにはおられない。目をこらせば、人間は自ら作りあげた虚構の崩壊におびえ、虚構に虚構をかさね、事実と自然とを粉飾する。…(略)…この廃墟こそ、混乱の時代を生きる我われへの無言のメッセージである。(206ページ)

中村哲先生の言葉だからこそよりいっそう重くのしかかる。文庫版の初版は2005年だけど、実際に書かれたのは1992年。30年も前なのに引用した上記の文章が実感とともに襲ってくる。なんて時代に生まれてしまったんだろうと思う。この間お父さんに、なんでそんな話になったかは忘れたけど、「あと10年遅かったらお前を生むのは考えていた」って言われた。まあもう生まれてしまったんだけど、それを正直に言ってくれるお父さんが好きだなって思ったんだった。最近しきりに「これからこの世界で生きていくのは大変だと思う。俺が子どもの頃は震災も感染症も、凄惨な事件も、世界規模のテロみたいなものも何もなかった。今はまた何かあるかもしれない、次は何だろうと思いながら生きている。昔はそんなこと考えてなかった」というような話をされるんだけど、いろいろお父さんも思うことがたくさんあるんだろうな。でももう私生まれてきちゃったからさ、生きていくしかないのよね。そういう時、道しるべや救いになるのが中村哲先生みたいな人だと思った。こういうふうに生きたい。信じたものだけを信じぬける強さを持ちたい。

 

19. 吉岡乾著『現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。』創元社、2019年

本を一冊読み終わったとき、次は何を読もう~って選ぶ作業が小さいけれど確かな幸せのひとつ。もちろんその時買ってきたものの中からそのまま読む場合もあるけど、だいたいは積ん読の山―動かざること、山の如し―から選ぶ。中村哲先生の本のあとにこれを選んだのは、どちらも舞台がパキスタンからアフガニスタンにかけてで、耳に(目に)馴染んだ地名が多かったからだ。もう面白くて声に出して笑いながら読んだ。日本は便利(なぜならすあまがすぐに手に入るから。でも関西にはないらしい。そうなの?!)、それに比べて調査対象のパキスタンは…大嫌いと断言してしまう。ちょっと卑屈で、いじいじしていて、それでも根底に調査と対象言語への愛がある著者の文章がすぐに大好きになっちゃった。また読み返したいし、続きを書いてほしい。。

 

20. 鳥谷丁子著『主婦の給料、5億円ほしー!!!』KADOKAWA、2020年

鳥谷さんの漫画、だいすきなんです!!!

 

21. 小川善照著『香港デモ戦記』集英社新書、2020年

子どもの頃から、旅行好きな親に連れられてあちこち行って、香港もその一つ。私にはほとんど記憶に残ってないくらいだけど、両親は香港が肌に合うようで、ここ数年は毎年行ってたんじゃないかな。だからなんとなくうっすらと香港は身近な存在で、 ちゃんともう一度行きたいなあとは思っていたんだけど。この本は2014年の雨傘運動の時から定期的に現地に飛んで丁寧に取材された結果が一冊にまとまっていてすごく分かりやすい。香港-中国という対立軸だけではなく、香港側にも「民主派」「自決派」「本土派」など思想を軸にした様々な派閥が入り乱れていることがよく分かった。と同時にものすごい焦りを感じた。隣の国で起こっている事実に対しての焦り。それを10代~20代の若者が中心になって起こしていることと自分を比べての焦り。例えば「ちゅうごくこわい」って言って、デモを心情的に応援するのは簡単だけど、それがどこまで正しいのかまできちんと考えたいと思った。よく「ロシアこわい」とかも言うし言われるけど、特定の国を一つとみなして思考停止したまま「こわい」って言って嘲笑するの、本当だめだよな…

 

22. 『小説版 韓国・フェミニズム・日本』河出書房新社、2020年

『韓国・フェミニズム・日本』の小説版。西加奈子さんの「韓国人の女の子」が良かった。在日朝鮮人の男の子との恋の話。一方は在日というマイノリティだけど男性というマジョリティで、一方は日本人というマジョリティだけど女性というマイノリティ。誰もが傷つける側でもあり、傷つけられる側でもあるということ。イ・ランさんの「あなたの能力を見せてください」は、最後の最後にそのタイトルの意味が分かってウワーってなる。たくさんヒントを出されていたのに、人から「鈍感だね」と言われるまでクラスメイトが「ザイニチ」であることに気づかない主人公について書かれた深緑野分さんの「ゲンちゃんのこと」を読んで、知らないことも誰かを傷つけうるし、知らないから真実ではないというわけではないんだと思った。それからハン・ガンの「京都、ファサード」。2017年の12月に亡くなった「あなた」への思いを綴る文章は、私にとっての「あなた」を重ねてしまってとても美しくて苦しい。

私がフェミニズムとか差別とか、歴史問題とか、そういう本を読むのは、その時間だけは止まっているようにも進んでいるようにも感じられるからだと思う。

 

23. イングリット・フォン・エールハーフェン&ティム・ティト著、黒木章人訳『わたしはナチスに盗まれた子ども 隠蔽された〈レーベンスボルン〉計画』原書房、2020年

この本を読むまで、「レーベンスボルン計画」というものを全く知らなかった。「レーベンスボルン」はナチスが純血アーリア人の親衛隊員を大量に生み出すために設立した協会のことで、親衛隊員と関係を持った未婚の女性が出産する施設などを運営していた。そればかりか、ポーランドやユーゴスラヴィアなどへ侵攻しながらその地の子どもたちの容姿をもとに純血アーリア人(などというものがいればなのだが)に見える子を「選別」して実の親から引き離し、ドイツ国内の夫婦にあてがっていたのだ。著者のイングリットさんは、自分がそうやってスロヴェニアから連れて来られた子どもだということを大人になるまで知らなかった。60歳にしてヨーロッパ中を駆け巡りながら、自分のルーツを探す旅に出て、何も話してくれなかった母親(義母)を許し、本当の意味で受け入れてくれないスロヴェニアの家族に寂しさを感じながらも、最終的に自分はドイツ人だとして生きていく。血にこだわるナチスとか、自分のルーツを探す旅だとか、アイデンティティは自分の「生まれ」ではなく「選択」にあるだとか、読みながらずっとなんとなくハリー・ポッターを重ねていた。

 

24. イ・ジン著、岡裕美訳『ギター・ブギー・シャッフル』新泉社、2020年

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本当は違う本を買おうとしていたんだけど、本屋で目に入ったこのまっさらな黄色にどうしても惹かれてしまった。真ん中のカタカナよりも先にブルーのハングルが目に飛び込んできて。朝鮮戦争後の混乱のソウルで、米軍相手にバンドとして活動した主人公の話なんだけど、これ本当に映画化してほしい…!音楽がいっぱいで映画映えすると思うんだけどな。アメリカに憧れ続けるその根本とか、韓国社会においてどこか侮蔑的に見られる芸能人という存在が描かれていて、その全てが今のK-POPに繋がってるのかなって感じられた。最後がいいんだよ~~~この最後のシーンをどうしても映画で観たい。泣いちゃうな。

著者の「日本の読者のみなさんへ」から、この一文がとても胸に響いた。

作品を愛し、広めたいという心だけで外国語を学び、ためらうことなく国境を越える人々、私を作家にしてくれた日韓両国の人々にこの本を贈ります。

 

25. 雑誌「GQ JAPAN No. 201 2020年7, 8, 9月合併号」

コロナとともにある状況において、161人からのメッセージ。イ・ランさんのメッセージが読みたくて買ったんだけど、大坂なおみちゃんのもよかったし華丸大吉さんとかあやちょとかいろいろ良いメッセージが読めた。個人的には台湾GQ編集長ブルース・トゥさんの「いまの経験は世界の幕間のようなもの」という言葉と、哲学者國分功一郎さんの「生きている者たちのために死者が冒涜されてもよいのか」というメッセージが心に残った。松岡修造のはもういかにも修造らしくて笑った。

 

26. ボムアラム『夢を描く女性たち イラスト偉人伝』タバブックス、2020年

最寄りの本屋はいかにも街の書店って感じでそれなりに小さいんだけど、なかなかどうしてフェミニズムコーナーが充実していてこうやって話題の新刊も割とすぐ入ってるの本当にありがたくてつい買ってしまう。タバブックスの『韓国フェミニズムと私たち』を読んでたから、ボムアラムが韓国のフェミニズム出版社だってすぐに分かったよ。元は韓国の書籍なので韓国の女性たちが中心だけど、日本版はそれにさらに足されていてとても良い。初めて目にする韓国や日本の女性偉人はもちろんだけど、ナイチンゲールやヘレン・ケラーをフェミニズム的目線で見たことがなかったから、改めて発見をしたようなそんな気がする。

tababooks.com

 

27. ダンシングスネイル著、生田美保訳『怠けてるのではなく、充電中です。』CCCメディアハウス、2020年

ダンシングスネイルさんは『死にたいけど、トッポッキは食べたい』のカバーを韓国版原書と日本翻訳版ともに描かれていることで知ったんだけど、気になってインスタ見て一気にファンになっちゃった。本当にかわいいの~~~~~癒し…

うつや無気力症を患っていたダンシングスネイルさんの心の充電法をそのイラストとともにまとめた本。私これ本当に好き。ふんだんに盛り込まれたイラストのひとつひとつがかわいくて心がなごむし、文章もあたたかくてやわらかくて、でもどこか力強くて。ダンシングスネイルさんはウチ族だと自称していて、私もウチ族だから分かりすぎてここ笑っちゃった。

「そうやって家にばかりいてつまんなくない?」

「せっかくの週末なのに、1日中家で何してるの?」

こんな質問をされると、ウチ族は面食らってしまう。哀れな人間どもよ、家から出ずして1日をいかに多彩に楽しく過ごせるか、知らないというのか!

(198ページ)

色使いが好きなんだよなあ…原画展とかやってほしい……もはやお会いしたい……

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28. 詫摩佳代著『人類と病 国際政治から見る感染症と健康格差』中公新書、2020年

興味深かったのは、第二次大戦前の日本は国際連盟を脱退した後も国際連盟保健機関を通じて国際的な保健事業には貢献していたとか、冷戦下においてソ連は天然痘撲滅の点でイニシアティブを、アメリカはマラリア根絶の点でそれぞれイニシアティブを取ろうとしたとか、人類と病の歴史はそのまま人類の歴史であり、国際政治に影響を与え与えられてきた歴史そのものなんだなということだった。本当に、コロナも歴史の一ページにすぎないんだろうな…それに人間が良いとか悪いとかの色をつけるだけで。

 

29. 渡辺靖著『白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」』中公新書、2020年

30. 上杉忍著『アメリカ黒人の歴史 奴隷貿易からオバマ大統領まで』中公新書、2013年

BLMのことが勉強したくて読んだ。後者の方は冷戦以後にだいぶ分量が割かれていてそこが良い。白人ナショナリズムの方はちょっと難しいところもあったんだけど、ショックだったのはアメリカの白人至上主義者たちの中で日本が「単一人種国家」としてお手本のように思われていること。問題はこれを読んで終わりじゃなくて、勉強を続けなくちゃいけないし次に何ができるかなんだよな。

 

31. 低橋『旅のオチが見つからない おひとりさまのズタボロ世界一周!』KADOKAWA、2020年

お母さんがコミックエッセイ好きで、その影響で私のコミックエッセイコレクションもなかなかだと思うんだけど、ここ数年はもちぎさん然り鳥谷さん然りSNS発信のものが増えてきて、確実に面白いと分かっているものだけを買うようになった。中でも低橋さんの漫画は本当に面白いし絵柄も好みで背景まで楽しいし鳥(?)の低橋さんかわいすぎるんですよ~~~~~~ラブ。

チリのチャリ旅の話本当に本当によかった。毎日を必死に生きるために生きるということ。私もしたくなっちゃった。インドの話も読みたいしオーストラリアのファームステイの話も読みたいので早く続きをください。

 

32. チャン・ガンミョン著、吉良佳奈江訳『韓国が嫌いで』ころから、2020年

「韓国が嫌いで」恋人も家族も友人も置いてオーストラリアへ女一人で移民に行くケナの話。もう一ページ目からケナのことが大好きになっちゃった。文体が「~だよね」とか「~じゃん」といった話し言葉になってるから、最初から最後までケナの話を直接聞いているみたいだし、共感できるところがたくさんあって、行動力があって意思の強い素敵なケナ。

朝の地下鉄二号線に乗って阿峴駅から駅三駅まで新道林駅経由で行ったことある?人間性だとか尊厳がどうのこうのなんて言葉、生存問題の前では全部ただのお飾りだと身をもって知るようになるから。(9ページ)

50とか60で死んじゃえばよくない?って考えてるのも、寒いソウルにうんざりしてオーストラリアへの移民を決めるのも、努力して努力して市民権を獲得するのも、インドネシア人の彼氏にプロポーズされて戸惑った自分自身にまたショックを受けているのも、ソウルの元恋人に「君がいないとだめだ」って言われて専業主婦として暮らしていくか悩みながら、何が自分の本当の幸せか見つけるのも、全部ぜんぶ魅力的。最後にケナは、幸せもお金と同じで「資産」と「キャッシュフロー」があると考える。何かを達成した時に得られて、成し遂げたという記憶が残って人を長いこと幸せにしてくれる幸せの「資産」。反対に、金利が低くて資産からの利子がほとんど発生しないから幸せな瞬間をたくさん創出しないといけない、幸せの「キャッシュフロー」。ケナは、自分にはどっちも大切だとしながら、韓国では必要なだけの幸せのキャッシュフローを作り出すのが難しかったとする。なるほどなあと思った。この考え方を自分に適用したら、ちょっと人生のヒントになってくれそうな、そんな気がする。

 

33. キム・ヨンデ著、桑畑優香訳『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』柏書房、2020年

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(LYシリーズにちなんだホログラムの美しさを伝えたくて写真撮ったら変な角度になっちゃったw)

音楽評論家の著者が、韓国人ならではの韓国音楽史を踏まえた視点と、アメリカ在住者としての体感をもとにBTSの「成功」を分析した本。個人的によく分かっていなかった2つの点が詳しく解説されていて読み応えあった。一つはなぜデビュー当初から「アンチ」と呼ばれる存在がいたのかということ。そしてもう一つはBBMAsでトップ・ソーシャル・アーティスト賞を獲得したことの意義。

なぜ彼らがこんなにも世界で人気になったのかという理由を、歌詞、すなわちBTSの紡ぐ言葉、その言葉から伝わる姿勢にあると終始述べているのが良かった。ずっとそう思ってきたから。

…(略)「違い」のポイントは、BTSの放つ普遍的で健全なメッセージにある。彼らは、アイドル音楽が避けてきた青春と成長についての物語を取り入れ、奥深いメッセージとともに洗練された音楽のなかに溶け込ませた。(96-97ページ)

ほかのボーイズバンドのように、普通の恋愛についても歌うが、自分自身と周りの世界にたいする省察的で哲学的なメッセージの魅力は、BTSだけの持ち味だ。…(略)…歌詞は偽りがなく具体的で、自分の感情や弱さをためらいなく表現する。敵や社会には批判的で反抗的だが、同世代の若者と心を分かちあい、励ましと癒しのメッセージを送る。(283ページ)

彼らのメッセージは押しつけがましくなく説得力に満ちている。自身が抱く闇と絶望を認めつつ、過度に後ろ向きになったりはしないからだ。(292ページ) 

brother suさんのインタビューがあってびっくりしたけど、翻訳アカウント運営者さんのインタビューもなかなか興味深かったw

 

34. 雑誌「Pen No. 497 2020年6/15号」

ジェンダー特集が読みたかったのもあるけれど、表紙のりゅうちぇるがとってもかわいいちぇるだったので買いましたちぇる。黄色のアイシャドウかわいい…

肝心の特集の方は、ジェンダーにまつわる用語、ジェンダーギャップ指数についての解説、男性の生きづらさ、同性婚・北欧の女性の活躍、ジェンダーと教育・AI・アート・ファッション・文学・映画などなど多岐にわたる内容で興味深かった。キムジヨンも載ってたし、男性の化粧についてのページでLAKAも載ってた。LAKAいいよね~~。印象に残ったのはロバート・キャンベルさんのインタビュー。

キャンベルさんいわく、社会の中にマイノリティを受け入れる枠をただ設けただけでは、“多様”とは言えたとしても、その多様性社会がもちうる本当のポテンシャルを、十分に活かすには至らないという。異なる個性を包括してフラットに同化させるのではなく、それぞれの個性同士の摩擦から生じる発展的な恩恵を享受して初めて、本当の意味でのダイバーシティは完成する。